米国への入国を希望する方は、SNSを「公開」に設定してください──。
入国審査を厳格化する米国の方針で、波紋が生じている。日本にあるアメリカ大使館のビザ課は2025年6月23日、Xに次のように投稿した。
「すべての米国ビザ審査は、国家安全保障に関わる判断です」「F、M、またはJ非移民ビザを申請する全ての方は、身元確認及び入国適格性の審査を円滑に行うため、すべてのソーシャルメディアアカウントのプライバシー設定を『公開』にするようお願いします」
この投稿は、入国管理を厳格化する米国の姿勢を明確に示している。米国と日本は同盟国であるため、安全保障の面では両国の関係は悪くないことになっている。しかし、たとえ同盟国の国民であっても、例外なくSNSの投稿の内容は審査の対象になる。
米国務省は6月18日付でこの新しい方針を公表したが、すでに米国の入国審査に対する疑心暗鬼を呼んでいる。
SNSの「公開」とは
実は、米国が外国からの入国希望者に対してSNSの情報を求める対応は、2019年5月末から始まっている。米国のビザを申請する際には、オンラインで申請書を提出するのだが、オンラインの申請書に、使用しているSNSや「識別子」を申告する項目がある。
2019年6月4日に米国務省が公表した「よくある質問」では、対象となるSNSは「Facebook、Instagram、Twitter(現X)を含むが、これらに限らない」と説明している。XなどのSNSでは、本名でなくハンドルネームを使っている人が多いが、米国務省が「識別子」の申告を求めている以上、ハンドルネームも明らかにすることが求められる。
米国は6年前から入国希望者のSNSを審査の対象としてきたが、非公開の投稿の設定変更までは求めていなかった。しかし、米国務省は18日以降、SNSのプライバシ-設定を「公開」にするよう求めている。公開は、米国の入国審査官がSNSのアカウントにログインしなくても、ネット検索で、申請者の投稿を閲覧できるようにすることを意味する。
では、アメリカ大使館の投稿に出てきた「F、M、またはJ非移民ビザ」とは何だろうか。FとMは、大学などの学生や、職業訓練課程で学ぶ人を対象とするビザだ。ざっくり言って、留学生として米国に在留を希望する人は、SNSを公開に設定する必要がある。「J」というカテゴリーは「交換訪問者」と呼ばれている。たとえば、米国の研究機関で一定期間、研究活動をする人や、政府のプログラムで米国に滞在する人などが、このカテゴリーに該当するようだ。
SNS上の振る舞いは審査の対象
では、具体的にどのようなSNSへの投稿が問題とされるのか。18日の声明で国務省は、次のように説明している。
「私たちは、ビザの審査と身元調査においてビザ利用できるあらゆる情報を駆使し、米国の国家安全保障に脅威をもたらす者を含め、米国への入国が不適格なビザ申請者を特定します」
声明を素直に読むと、ビザの申請者が米国の安全保障上、脅威になるかどうかが審査される。米国に敵対的な投稿、こうした投稿への「いいね」や「グッド」、リツイート、フォローしている政治家や著名人など、SNS上のあらゆる振る舞いが、米国の当局にチェックされるだろう。
また、使っているSNSのアカウントを故意に申告しない場合も、虚偽申告として入国拒否の理由になりうる。秘匿性の高さで知られるテレグラムなどへの投稿も、申告が求められると考えられる。
バンス氏のミーム画像で入国拒否?
6月11日には、ノルウエー人の男性が米国の空港で入国を拒否された。この男性は地元のメディアに対して、J・D・バンス副大統領の顔が丸く見えるミーム画像(ネタ写真)がスマホに保存されていたことを理由に入国を拒否されたと主張し、この出来事は欧米のメディアにも転載され、SNSで拡散された。

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