米国の実業家イーロン・マスク氏が、新しい政党「アメリカ党」(America Party)を立ち上げると宣言した。
マスク氏は、もともとトランプ大統領の大口献金者で、2025年1月の2度目のトランプ政権発足時には、マスク氏率いる「政府効率化省(DOGE)」が大規模なリストラを実施するなど、親密な関係だった。
しかし、4月末にはトランプ氏とマスク氏の関係は悪化し、マスク氏は政府の職務から退くと表明。マスク氏はその後、トランプ氏の大幅な減税と歳出の増加を伴う予算に対して、Xなどで「米国は破産する」と批判を続けてきた。
7月1日に米連邦議会の上院で、関連する法案が可決され、法律として成立したことをきっかけに、マスク氏は、Xで新しい政党の立ち上げについて是非を問うアンケートを実施した。この結果、約124万件の回答があり、65.4%が新党の立ち上げについて「YES」と答えた。この結果、マスク氏は2026年の中間選挙で、上院や下院に候補者を擁立する考えを示している。
米国は、共和党と民主党が大統領選、連邦議会の上院と下院で激しく競り合う二大政党制が長く続いてきた。米国では少数政党が影響力を発揮するのは非常に難しいと考えられているが、マスク氏に勝算はあるのだろうか。
米国で、「第三の党」の道のりは険しい
7月6日のロイターによれば、マスク氏の新党設立宣言に対して、トランプ大統領は記者団に対して次のように話したという。
「第三の政党を結成するのはばかげていると思う。共和党は大きな成功を収めてきた。民主党は道を見失っているが、これまでは常に二大政党制であり、第三の政党を結成するのは混乱を増すだけだ」
トランプ氏が言うように、過去にも無所属の候補者が大統領選に出馬したり、第三の政党を目指したりする動きはあったが、大きな成果にはつながらなかった。実際、マスク氏が新党の立ち上げを宣言すると、XなどのSNS上には、新党の成功に懐疑的な投稿が相次いだ。
しかし、マスク氏はこうした懐疑的な見方に対して、「率直に言って、難しくない」と投稿している。マスク氏の主張のよりどころは、米国でも日本のように無党派層が拡大している点にある。
無党派層が拡大する米国
世論調査で知られるギャラップ社の2024年の調査によれば、全米の政党支持率は、共和党、民主党がともに28%で拮抗している。一方で、無党派層は43%にのぼっている。
同じ調査の結果を過去にさかのぼると、2000年の時点では、共和党30%、民主党34%、無党派層35%と、米国全体の3分の1ずつを、共和党、民主党、無党派層が分け合う構図だった。しかし、2011年以降は、2016年(39%)を除いて、無党派層が4割以上を占める結果が続いている。この構図に、アメリカ党の候補者が割って入った場合、どのような展開が考えられるのだろうか。
マスク氏は、以前は民主党の支持者として知られていたが、近年は、共和党のトランプ氏を支持し、巨額の選挙資金を提供してきた。アメリカ党がどのような政策を打ち出すのかについては、現時点では不透明だが、マスク氏は政府効率化省で大幅な人員削減と政府支出の削減を目指したように、小さな政府と減税を志向しているのは間違いない。
この政策の傾向から考えると、アメリカ党が掲げる政策は、民主党よりも共和党に近く、共和党の票が割れることで、結果として民主党を利することになるという見方がある。これは、マスク氏の近年の主張から考えると、望ましい展開ではないだろう。
キャスティングボートを狙うマスク氏

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