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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第344回

「脱マイクロソフト」の流れ、欧州から “デジタル主権”取り戻せるか

2025年07月15日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 欧州の一部の中央政府や地方政府で、マイクロソフトのWindowsやOfficeの利用を見直す動きがある。

 日本の状況を見ると、どの中央省庁でも、自治体でも、WindowsとOfficeのセットで、仕事を回しているところばかりだろう。かつて役所が好んで使う文書作成ソフトと言えば、一太郎というアプリケーションがあったが、最近では、ほぼWordに移行しているだろう。

 各国の政府機関でもマイクロソフトの優位は圧倒的だが、デンマークのメディアPOLITIKENは2025年6月9日、同国のデジタル化省の大臣が、マイクロソフトの利用を段階的に廃止する考えを示したと報じた。このニュースは、世界各地のメディアに転載された。

 政府や企業の業務に欠くことのできないデジタルインフラ、サービスを提供する企業は米国に集中している。ある国の政府機関が米国企業のサービスを使うと、その政府機関のデータも米国企業が握ることになる。欧州では、こうしたデータに対する支配を嫌い、「デジタル主権」を取り戻そうとする試みがある。

 しかし、世界中の政府機関や民間企業は長い間、ITやデザインといった一部の分野を除き、OSはWindows、文書作成や表計算ではWord、Excelに依存してきた。「脱マイクロソフト」を目指す取り組みは、実現が可能なのだろうか。

デンマークはLibreOfficeを使うようだ

 複数の報道によれば、デンマークのデジタル化省は、Microsoft OfficeとMicrosoft 365をオープンソースのLibreOfficeに移行するという。LibreOfficeは、The Document Foundation という非営利団体が開発とアップデートを担っている。

 LibreOfficeは無料で、ソースコードが公開されているため、ユーザーに内緒でデータを送ったりしていないか、疑念を抱く必要もない。開発の手間はかかるが、政府機関や企業のニーズに応じて、アプリをカスタマイズすることもできる。

 筆者は、無料のオフィス系アプリとして、LibreOfficeの名前は知っていたが、実際に使ったことはなかった。デンマーク政府の取り組みについて記事を執筆するうえで、LibreOfficeをインストールし、実際にこの記事の執筆に使ってみた。

 ウェブの記事を構成する要素は、見出し、小見出し、本文、画像とキャプションぐらいだ。テキストファイルとしては簡単な構成であるだけに、テキストを入力し、見出しのレベルを設定するくらいの作業では、特に違和感はなかった。若干UIが古めかしいのと、どこにどの機能が配置されているのかが把握しにくいという課題はあったが、慣れの問題だろう。

問題は取引先との関係か

 LibreOfficeには、書類作成だけでなく、表計算、プレゼンテーション、データベース、ドローなど必要なアプリはそろっている。WindowsとOfficeを前提に巨大なシステムが構築されている大企業でなく、中小企業や個人であれば、多少の不便に目をつぶれば、脱マイクロソフトは、やってやれなくもない。LibreOfficeでは今のところ、Officeのようにパワポ作成をCopilotに丸投げ!といった運用は望めないが。

 問題となるのは、他社との関係だ。たとえば、企業が日本の政府機関に報告書を提出するときは、ファイルはWordで、フォントはMS明朝とTimes New Romanでなど、Officeを前提とした仕様が定着している。民間企業の間の取引でも、やはりWord、Excel、パワポでという指定が定着している。

 LibreOfficeのファイル形式は書類作成でodt、表計算でodsなど、Officeとは異なる拡張子を使っている。WordやExcelとの互換性もあるが、やはり、Wordファイルを開いたらレイアウトが崩れてしまうなど、「完全互換」とまではいかないだろう。そうなると、自社だけ「マイクロソフトからオープンソースに変更します!」とはなかなか言えない。

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